
フリーランスには会社の看板がありません。メールの一通、納期の一日が、そのまま個人の信用として積み上がります。ただ「何から気をつければいいのか」「丁寧にしすぎて損をしていないか」と迷う人も多いはずです。結論から言えば、マナーの目的は好印象ではなく「もう一度依頼されること」です。この基準で考えると、優先順位も、遠慮してはいけない場面もはっきりします。
【結論】フリーランスのビジネスマナーで最優先すべきことは?
最優先は、24時間以内の一次返信です。次に納期、確認、条件、体裁の順になります。クライアントが見ているのは言葉づかいの正しさより「この人にまた頼んで大丈夫か」。その判断に響きやすい順に、編集部で5つに整理しました。
- レスポンスの速さ回答が出せなくても、24時間以内に「受け取った」と返す
- 納期の確実さ遅れそうなら気づいた時点で、代替案を添えて連絡する
- 認識のずれを潰す確認着手前と打ち合わせ後に、決定事項をテキストで残す
- 条件を曖昧にしないこと報酬・範囲・支払期日は、書面やメールで確認する
- 言葉づかいと体裁敬語やメールの型は、上の4つがそろってから効いてくる
多くの人が誤解しているのが4番目です。お金や条件の話を遠慮するのはマナーではありません。2024年11月施行のフリーランス法で、取引条件の明示は発注者側の義務になりました。確認を求めるのは、法が想定している正しい進め方です。
なぜ「再依頼」を基準にするのか。フリーランスの仕事の多くは、既存の関係から生まれるからです。次の章で見るとおり、最も稼げる獲得経路は人脈と過去・現在の取引先でした。マナーは礼儀作法ではなく、営業活動そのものだと考えると、力を入れる場所が見えてきます。
ただし、この順番が当てはまらない場面もあります。初回の商談や大手企業との取引では、体裁の不備がそのまま「組織での仕事に慣れていない人」という評価につながることがあります。相手の組織文化に合わせる判断は、別に必要です。
なぜマナーが収入に直結するのか|獲得経路のデータ
「マナーが大事」は精神論に聞こえますが、仕事の獲得経路を見ると、理由は構造的に説明できます。
最も稼げる経路は「人脈」と「過去・現在の取引先」
フリーランス協会の「フリーランス白書2026」では、最も稼げる仕事の獲得経路は1位が人脈、2位が過去・現在の取引先、3位がエージェントサービスでした。
| 順位 | 獲得経路 | マナーとの関係 |
|---|---|---|
| 1位 | 人脈 | 紹介は「この人を紹介して恥ずかしくないか」で決まる |
| 2位 | 過去・現在の取引先 | 再依頼には、仕事の進め方の評価がそのまま反映される |
| 3位 | エージェントサービス | 担当者との連携の質が、紹介の量と質を左右する |
上位2つはどちらも「すでにあなたと仕事をした人、あなたを知っている人」です。つまり収入に最も効く経路は、過去の仕事ぶりで決まっているということ。スキルが同等なら、一緒に進めやすい相手が選ばれます。
人が誰かを紹介するとき、考えるのは「この人なら大丈夫か」です。紹介者は自分の信用を賭けているため、スキルの高さより、トラブルを起こさないかどうかが判断基準になります。
返信が遅い、納期がぶれる、といった小さな不安要素があるだけで、名前は出してもらえません。マナーの不備は、気づかないうちに紹介の機会を失わせています。
信頼を失いやすい失敗パターン3つ
契約が続かなくなる原因は、スキル不足より「悪気のない小さな行き違い」であることが少なくありません。よくあるのは次の3つです。
- 複数の取引先への一斉メールをCCで送ってしまう取引先どうしにアドレスが見え、情報管理ができない人という印象が残る
- 遅れそうなのに、何とかなると思って連絡しない納期当日の報告は、相手の後工程と社内調整をまとめて崩す
- 範囲外の修正を無償で受け続け、ある日限界がくる突然の値上げや辞退に見え、それまでの対応が評価されにくくなる
どれも、この記事で扱う「宛先の確認」「早めの一報」「条件の事前相談」で防げます。
発注担当者は、外注先の仕事ぶりを社内に説明する立場です。「任せて手間が減ったか」「社内で説明に困る場面がなかったか」が、次の発注を決める実感に近い基準になります。
確認の催促が要らない、問題が早めに共有される、条件の行き違いがない。こうした相手ほど担当者の負担が減り、次の案件でも名前が挙がります。
エージェント経由でも同じ構造が働く
エージェントの担当者も、多くのフリーランスを同時に担当しています。返信が早い、辞退の理由を添えてくれる、稼働状況を先に共有してくれる。こうした相手のほうが、条件のよい案件が出たときに先に声がかかります。担当者は「クライアントに安心して推薦できるか」を見ているからです。
あわせて読みたい(エージェントとの付き合い方)
連絡・レスポンスのマナー|返信は何時間以内が目安?
最も差がつくのがここです。スキルでは差がつきにくくても、レスポンスの速さでは明確に差がつきます。
24時間以内の一次返信を習慣にする
日本ビジネスメール協会の調査では、6割を超える人が「24時間以内に返信がないと遅い」と感じると答えています。大事なのは、回答が出せなくても「受け取った」と返すことです。「確認のうえ、◯日までにご回答します」の一文があるだけで、相手は待てるようになります。
クライアントが最も不安になるのは、返事が来ない時間です。フリーランスは相手から働いている様子が見えないため、沈黙は「連絡がつかない人」という評価に直結します。休暇や作業に集中する時間帯は、あらかじめ伝えておきましょう。
報告は「聞かれる前」に出す
進捗の共有、問題の連絡、判断の相談。見えない場所で働くぶん、情報は多すぎるくらいでちょうどよいと考えてください。
- 着手前に認識をテキストで確認する目的・範囲・納期を箇条書きで送り、「この理解で進めます」と伝える
- 頻度を決めて進捗を出す週1回など、聞かれなくても届くリズムをつくる
- 問題は発生した時点で共有する解決してから報告すると、相手が手を打つ時間を奪う
- 判断が必要な点は選択肢で示す「案は2つあり、Aを推奨します。理由は〜」の形で出す
4つ目がとくに効きます。「どうしましょうか」と丸投げせず、推奨案と理由まで添えると、相手の判断が速くなり、提案力の評価にもつながります。
連絡手段と時間帯は相手に合わせる
| 手段 | 向いている用途 | 注意点 |
|---|---|---|
| メール | 正式な連絡、記録に残したい合意 | 速報性は低い |
| ビジネスチャット | 日常のやり取り、簡単な確認 | 重要な合意は流れて埋もれやすい |
| Web会議 | 認識合わせ、相談、初回の打ち合わせ | 決定事項は必ずテキストに残す |
| 電話 | 緊急時 | 相手の作業を止めるため多用しない |
基本はクライアントが普段使っているツールと時間帯に合わせることです。深夜や休日に作業しても、送信は相手の営業時間内になるよう予約送信を使います。そして重要な合意だけは、メールなど記録に残る形で確認してください。
電話とお礼の連絡
- 電話は用件をメモしてからかける冒頭で名乗り、「◯◯の件で3分ほどよろしいでしょうか」と所要時間を伝える
- 留守番電話は短く、詳細はメールで送る名前・用件・折り返しの要否だけを残し、「詳細はメールでお送りしました」と添える
- 節目にお礼を一言伝える初回の打ち合わせ後、納品後、案件終了時。短い一文でも、次の依頼を思い出してもらうきっかけになる
メール・チャットのマナー|基本の型とTO・CC・BCC
テキストのやり取りは、フリーランスの仕事の中心です。型を1つ持っておけば、毎回迷わずに済みます。
名乗り方と自己紹介
会社名がないフリーランスは、最初の名乗りで「何をしている誰か」を伝えるのが基本です。屋号があれば「屋号+氏名」、なければ「職種+氏名」で名乗ります。
| 状況 | 名乗り方の例 | ポイント |
|---|---|---|
| 屋号がある | ◯◯デザイン事務所の◯◯です | 事業者として認識されやすい |
| 屋号がない | フリーランスでWebディレクターをしております◯◯です | 職種を添えると役割が伝わる |
| エージェント経由 | ◯◯(エージェント名)からご紹介いただきました◯◯です | 紹介経路を示すと話が早い |
初回の打ち合わせでは、経歴を長く話すより「担当できる範囲」と「連絡がつく時間帯」を先に伝えると、相手が仕事を頼むイメージを持ちやすくなります。
メールの基本構成
| 件名 | 案件名と要件を入れる。例:【◯◯サイト改修】納品物送付の件 |
|---|---|
| 宛名 | 会社名+部署+氏名+様。担当者が不明なら「ご担当者様」、会社宛なら「◯◯御中」(「御中」と「様」は併用しない) |
| 本文 | 結論を先に。1通1用件を基本にし、依頼事項と期限は箇条書きで目立たせる |
| 署名 | 屋号・氏名・メールアドレス・電話番号・サイトやポートフォリオのURL |
とくに件名に案件名を入れるのが効きます。相手は複数の案件を並行して抱えているため、件名だけで振り分けられるかどうかで処理の速さが変わります。返信時は件名を変えずに「Re:」を残すと、やり取りの履歴を追いやすくなります。
言葉づかい|間違えやすい表現と言い換え
優先順位では5番目でも、言葉づかいの誤りは一度で目につきます。とくに間違えやすいのは次の表現です。
| 避けたい表現 | 言い換え | 理由 |
|---|---|---|
| ご苦労様です | お疲れ様です | 目上の人をねぎらう表現としては避けるのが一般的 |
| 了解しました | 承知しました/かしこまりました | 取引先には、よりかしこまった表現が無難 |
| メールで「御社」 | 貴社 | 「御社」は話し言葉、「貴社」は書き言葉で使い分ける |
| ◯◯様各位 | 関係者各位 | 「各位」に敬意が含まれるため「様」と重ねない |
| させていただきます(多用) | いたします | 重なるとくどく、かえって読みにくい |
依頼や断りの前には、「恐れ入りますが」「お手数ですが」などのクッション言葉を添えると、同じ内容でも角が立ちにくくなります。
TO・CC・BCCの使い分け
| 宛先 | 使い方 | アドレスの見え方 |
|---|---|---|
| TO | 対応してほしい相手 | 全員に見える |
| CC | 情報共有したい関係者 | 全員に見える |
| BCC | 互いに面識のない複数人への一斉送信 | 他の受信者には見えない |
BCCに入れるべき宛先をCCに入れると、全員のメールアドレスが互いに公開されます。複数のクライアントに年末年始の挨拶などを送るときは、送信前に宛先欄を必ず確認してください。
不安があるなら、一斉送信をやめて1通ずつ送るのが確実です。
添付ファイルとチャットの作法
- 本文で添付の有無を明記する「◯◯を添付しております」と書き、添付漏れにも気づいてもらえるようにする
- ファイル名に案件名・内容・日付を入れる例:◯◯サイト_ワイヤーフレーム_20260928。先方が保存するときに探しやすい
- 大容量は共有方法を事前に確認するクライアント側で使えないファイル共有サービスもある
- チャットは要点を先に、返信要否を明確に「ご確認のみで返信不要です」「◯日までにご判断ください」を添える
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そのまま使えるメール例文6つ
気まずい連絡ほど、書き出しで手が止まります。型があれば、連絡の遅れそのものを防げます。◯◯の部分を差し替えて使ってください。
1. 初めて取引する相手への挨拶
初回の挨拶メール(例文)
件名:【◯◯サイト改修】ご挨拶(フリーランス Webディレクター ◯◯)
株式会社◯◯
◯◯様
はじめまして。このたび◯◯サイト改修のディレクションを担当いたします、フリーランスの◯◯と申します。
今回は、要件整理から公開後の確認までを担当いたします。平日10時〜18時は、原則当日中にご返信いたします。
進め方のご希望やご不明点があれば、お気軽にお知らせください。どうぞよろしくお願いいたします。
――――――
◯◯(屋号) ◯◯ ◯◯
メール:◯◯@◯◯ 電話:◯◯
ポートフォリオ:◯◯(URL)
2. 依頼を受け取ったときの一次返信
一次返信のメール(例文)
件名:Re:【◯◯サイト改修】修正のご依頼
株式会社◯◯
◯◯様
お世話になっております。◯◯です。
修正のご依頼、確かに拝受いたしました。
内容を確認のうえ、完了予定日を◯月◯日(◯)までにご連絡いたします。
3. 納期に遅れそうなときの連絡
納期遅延の相談メール(例文)
件名:【◯◯サイト改修】納品日についてのご相談
株式会社◯◯
◯◯様
お世話になっております。◯◯です。
◯月◯日納品予定の◯◯について、◯◯の確認に想定以上の時間がかかっており、予定日に全体を納品するのが難しい見込みです。ご迷惑をおかけし申し訳ございません。
つきましては、次のいずれかでご相談させてください。
案1:◯月◯日に◯◯のみ先行納品し、残りを◯月◯日に納品
案2:全体の納品日を◯月◯日に変更
ご都合のよい案をお知らせいただけますと幸いです。
4. 範囲外の追加依頼を受けたときの相談
追加作業の条件確認メール(例文)
件名:Re:【◯◯サイト改修】追加ページのご依頼
株式会社◯◯
◯◯様
お世話になっております。◯◯です。
追加ページのご依頼、ありがとうございます。ぜひ対応させていただきたく存じます。
当初お見積もりの範囲外となるため、追加費用◯◯円(税別)、納期は◯月◯日を想定しております。こちらの条件でよろしければ、ご返信をもって着手いたします。
5. 依頼を辞退するとき
辞退のメール(例文)
件名:Re:【◯◯のご相談】
株式会社◯◯
◯◯様
お世話になっております。◯◯です。
このたびはお声がけいただき、ありがとうございます。
大変ありがたいお話ですが、◯月末まで稼働が埋まっており、ご希望の時期には十分な品質でお引き受けできないため、今回は辞退させていただきます。
◯月以降であれば対応可能ですので、またご相談いただけましたら幸いです。
6. 実績として掲載してよいかの確認
実績掲載の確認メール(例文)
件名:【◯◯サイト改修】実績掲載のご相談
株式会社◯◯
◯◯様
お世話になっております。◯◯です。
先日納品した◯◯を、ポートフォリオに実績として掲載してもよろしいでしょうか。社名・画面・成果の数値のうち、掲載できる範囲をお知らせいただけますと幸いです。難しい場合は「◯◯業界の企業」として匿名で記載いたします。
納期・スケジュールのマナー|遅れるときの正しい動き方
納期の確実さは、レスポンスと並ぶ信頼の柱です。スキルが高くても、納期がぶれると評価は一気に落ちます。
- 見積もり段階で余裕を持たせる確認待ちや修正の往復にかかる日数も含めて提示する
- 納期は厳守し、できれば前倒しで出す相手の確認時間が増え、修正も納期内に収まりやすい
- 遅れそうなら気づいた時点で連絡する前日ではなく、遅れの兆しが見えた時点が連絡のタイミング
- 遅延の連絡には代替案を添える新しい納期、部分納品、優先順位の組み替えなど
- 自分の稼働可能時間を把握しておく受けすぎは遅延の最大の原因になる
遅延そのものより、連絡なく納期を過ぎることのほうがダメージは大きいです。相手は後工程を調整できず、社内への説明もできません。
逆に、早めに一報を入れて代替案を示せば、「状況を管理できる人」と評価されることもあります。
遅延を防ぐ根本策は、受注量を自分の稼働可能時間に合わせることです。週の稼働日数を抑えた案件や、登録先の組み合わせ方を見直すのも一つの方法です。
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打ち合わせのマナー|オンラインは「環境」で印象が決まる
対面・オンライン共通のマナー
- 時間を守るオンラインは開始数分前に入室できるよう準備しておく
- 議題と資料を事前に共有する目的をそろえておくと、短い時間で結論が出る
- 身だしなみは清潔感を第一に相手の業界や場面に合わせて調整する
- 終了後、決定事項をテキストで送るお礼とあわせて「本日の決定事項」「宿題と期限」を箇条書きで共有する
最後の1つが最も重要です。口頭で決めたことは、双方の記憶が必ずずれます。議事メモを自分から送るだけで後の認識違いはほぼ防げますし、トラブル時には自分を守る記録にもなります。
オンライン打ち合わせのチェックポイント
| 項目 | やること | 理由 |
|---|---|---|
| 機材と回線 | 開始前にカメラ・マイク・通信を確認する | 冒頭のトラブルは印象に残りやすい |
| 音声 | マイク付きイヤホンを使い、発言しないときはミュート | 雑音や反響は相手の集中を削る |
| 照明 | 顔の正面から光が当たるようにする | 表情が見えないと反応が伝わらない |
| 背景 | 生活感が出すぎない場所を選ぶ | 背景ぼかしは輪郭が乱れることがある |
| 相づち | うなずきや短い返しを意識する | 画面越しでは聞いている姿勢が伝わりにくい |
この表の多くは、その場の心がけではなく自宅の作業環境で決まります。照明の位置、マイクの質、背景になる壁、通信の安定。毎回の打ち合わせで同じ印象を出すには、ワークスペースそのものを整えるのが近道です。
在宅のフリーランスにとって、デスク周りは「毎回の打ち合わせ会場」でもあります。照明・背景・音響をそろえる投資は、マナーへの投資と考えられます。
机や椅子、照明などの備品は、事業で使う部分が経費になります。家具の選び方から経費の扱いまでは、下の記事で詳しく整理しています。
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お金と条件の話は遠慮しない|フリーランス法で確認すべき点
この章が、この記事で最も伝えたい部分です。お金や条件の話を遠慮するのは、マナーではありません。曖昧なまま進めると、後で双方が困ります。
取引条件の明示は「発注者の義務」
2024年11月1日に施行されたフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、フリーランスに業務を委託する事業者に、取引条件を書面またはメールなどの電磁的方法で明示する義務があります。口頭だけで済ませることは認められていません。
| 施行日 | 2024年11月1日 |
|---|---|
| 明示すべき主な事項 | 業務の内容、報酬の額、支払期日、発注者・受注者の名称、委託した日、納品日と納品場所、検査完了日(検査する場合)、現金以外で支払う場合の支払方法など |
| 報酬の支払期日 | 納品(給付の受領)日から60日以内の、できる限り短い期間内 |
| 契約終了の予告 | 6か月以上の継続的な業務委託を中途解除・不更新する場合、原則30日前までに予告 |
| ハラスメント対策 | 相談体制の整備などを義務づけ |
つまり条件の確認を求めるのは、わがままではなく法が想定している進め方です。「発注書かメールで条件をいただけますか」と頼むこと自体が、プロとしての正しいマナーと言えます。
データで見る|違反の多くは「支払期日」と「明示」
公正取引委員会の発表では、令和7年度(2025年度)の措置は勧告10件・指導1,542件でした。違反行為の類型では、期日における報酬支払義務違反が1,135件、取引条件の明示義務違反が1,126件で、この2つが違反行為(延べ2,727件)の8割超を占めています。
業種別では、措置件数1,552件のうち情報通信業が575件(37.0%)と最多です。IT・Web系のフリーランスにとって、条件が曖昧なまま始まる取引は身近なリスクだということがわかります。
一方で、フリーランス協会の白書では、フリーランス法が取引先との会話に出たことがある人は21.7%にとどまり、施行後に違反だと感じた経験がある人は28.5%でした。法律はあっても、確認は自分から切り出す必要があるのが現状です。
着手前に確認しておくべき7項目
- 業務の範囲どこまでが今回の作業か。含まないものも書いておく
- 報酬額と支払期日税込・税別の別、振込手数料の負担もあわせて確認
- 納品物の形式と納期ファイル形式、納品方法、中間確認の日程
- 修正の回数と範囲外の扱い何回まで含むか、超えた場合の費用
- 検収の基準とタイミング何をもって完了とするか、確認期間は何日か
- 成果物の権利著作権の帰属、実績として公開できるか
- 経費の負担交通費、素材購入費、有料ツールの費用
とくに修正の回数と範囲外の扱いは、決めていないとトラブルの温床になります。当初の範囲を超える作業は、黙って対応せず、費用と納期を相談してから着手するのが原則です。無償で応じ続けると、それが標準の範囲になります。
自分が別のフリーランスに作業を依頼する場合、外注先が従業員のいない個人(または一人社長の法人)なら、あなたに従業員がいなくても取引条件の明示義務が発生します。外注するときは、条件をメールで送る習慣をつけましょう。
報酬交渉と請求のマナー
単価の相談は、作業量・専門性・相場の3つの根拠を示すと通りやすくなります。「安いと思うので」では、相手は判断できません。請求の場面では、次の3つを守るだけで経理担当者からの評価が変わります。
- 期日どおりに発行する先方の締め日と、請求書の送付先・形式を最初に確認しておく
- 記載内容を正確にする適格請求書発行事業者なら、発行者の氏名(名称)と登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとに区分した対価の合計額と適用税率、税率ごとの消費税額、宛名の記載が必要。デザイン料や原稿料など、報酬から源泉徴収(100万円以下の部分は10.21%)される業務もあるため、先方の処理方法も確認する
- 入金を確認したら一言お礼を伝える期日を過ぎても入金がない場合は、責めずに「行き違いでしたら恐縮ですが」と事実確認から始める
本記事は2026年9月時点の情報をもとにした一般的な解説で、法務や税務の助言ではありません。契約内容や法令の適用は個別の事情で変わります。
判断に迷うときは契約書を確認のうえ、弁護士・税理士などの専門家や、厚生労働省の委託で弁護士が無料で相談に応じる「フリーランス・トラブル110番」などの公的窓口に相談してください。
あわせて読みたい(条件と単価を守る)
丁寧さはどこまで?「指揮命令」との境界線
マナーの記事ではあまり書かれない論点ですが、フリーランスには重要です。「言われたとおりに動く」を突き詰めると、契約の性質そのものが問われます。
業務委託契約でも、始業・終業の指定や、進め方に裁量がない状態が重なると、労働者性が個別に判断されることがあります。
| 場面 | マナーとして適切 | 行き過ぎると問題になり得る |
|---|---|---|
| 連絡への応答 | 営業時間内に速やかに返す | 常時待機を求められ、応じ続ける |
| 作業の進め方 | 相手の意向を確認して合わせる | 手順まで細かく指示され、裁量がない |
| 稼働時間 | 合意した時間帯に稼働する | 始業・終業を管理され、勤怠を報告する |
| 追加依頼 | 範囲と条件を相談して受ける | 断れず、範囲外の作業を無償で続ける |
右の列は、「丁寧に対応しているつもり」が積み重なった結果として起こりがちです。契約内容と実際の働き方がずれていないか、定期的に見直しましょう。
理不尽な要求や、ハラスメントにあたる扱いを黙って受け入れる必要はありません。やり取りの記録を残したうえで、エージェント経由なら担当者に、直接契約なら公的な相談窓口に相談してください。
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断り方・トラブル対応のマナー
すべての依頼を受ける必要はありません。断り方ひとつで、その後の関係が決まります。
角を立てずに断る4原則
- 早く返す保留が長いほど、相手が次を探す時間を奪う
- 感謝を先に伝える声をかけてもらったことへのお礼を述べてから、受けられない旨をはっきり伝える
- 理由を簡潔に添える稼働の都合か、領域が合わないのか。次に声をかけてよいかの判断材料になる
- 次につながる形にする時期をずらす、範囲を絞る、他の人を紹介する、のいずれかを添える
最もやってはいけないのが、できないことを「できます」と言うことです。安請け合いは、断ることよりはるかに大きく信頼を損ないます。
トラブル・クレームへの対応
- まず最後まで聞き、事実関係を確認する途中で反論すると、論点より感情の対立になる
- 非がある部分は、具体的な対応策と期限を添えて謝る謝罪だけで終わらせず、次に何をするかを示す
- やり取りはテキストで行う記録が残ることで、双方が冷静になりやすい
- 認識の相違は契約書と過去の履歴で確認する議事メモや確認メールが、ここで効いてくる
- 対応が難しいときは第三者に相談するエージェントの担当者、専門家、公的な相談窓口
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守秘義務・情報管理・実績公開のマナー
フリーランスは複数のクライアントの情報に触れる立場です。情報の扱いは、マナーであると同時に契約上の義務でもあります。
- 秘密保持契約(NDA)の内容を守る契約終了後も続く義務が定められていることが多い
- クライアントのデータを私物端末に不用意に残さない案件終了時の削除・返却のルールも確認しておく
- カフェや共有スペースでの作業に気をつける画面ののぞき見、公衆無線LAN、通話内容の漏れに注意する
- 競合する案件を同時に受けるときは事前に確認する契約で競業を制限していることもある
- SNSで取引先や進行中の案件に触れない愚痴や内情は、社名を伏せても関係者には特定されることがある
実績公開は「聞いてから」が原則
ポートフォリオや発信で実績を紹介したくなる場面は多いものですが、成果物の権利と公開可否は契約によって異なります。社名を出す、画面を載せる、数値を示す。いずれも事前の確認が必要です。
確認するときは、掲載の可否と「社名・画面・数値をどこまで出せるか」をセットで聞くとスムーズです(前述の例文6を参照)。断られた場合も、業種と担当した役割だけを匿名で書く方法があります。
名刺と身だしなみ
対面の機会があるなら、屋号や連絡先、ポートフォリオのURLを載せた名刺があるとスムーズです。ただしエージェント経由の常駐・準委任案件の面談では、商流への配慮から名刺交換をしない場面もあります。事前に担当者へ確認しておくと当日迷いません。
あわせて読みたい(情報と実績の扱い)
契約形態別|マナーの重点はこう変わる
同じフリーランスでも、誰と、どの形で契約しているかで気をつける点は変わります。自分の契約形態に合わせて、重点を置く場所を決めましょう。
直接契約クライアントと直接やり取りする
エージェント経由担当者を介して案件に参画する
常駐・チーム参画現場のメンバーと日常的に働く
よくある質問(FAQ)
マナーの目的は再依頼。優先順位はレスポンス、納期、確認、条件、体裁の順
気まずい連絡ほど型を使い、早く出す。遅延は代替案を添えて気づいた時点で
条件の明示は発注者の義務。報酬・範囲・支払期日はメールか書面で確認する

