フリーランスの実績公開|許可のもらい方と契約の要点

フリーランス 実績 公開 許可 もらい方

自分で作ったものなのに、実績として公開するには相手の許可がいる——納得しにくい話ですが、これがフリーランスの現実です。しかも許可を取らずに公開すると、著作権侵害や秘密保持義務違反として、損害賠償を求められる可能性すらあります。この記事では、なぜ許可が必要なのかという理由から、契約書のどこを見るか、契約時に入れておくべき条項、納品後に許可をもらう手順、そのまま使える依頼文、断られたときの代替案までを、実務の順番に沿って解説します。

実績の公開に許可がいる理由:立ちはだかる3つの壁

「自分が手を動かして作ったのだから、自分の実績として見せて当然」——感覚としては自然ですが、契約の世界ではそうなりません。実績公開の前には、性質のまったく違う3つの壁が立っています。この3つを混同していると、確認すべき相手も、聞くべき内容もずれてしまいます。

壁1:著作権が自分の手を離れている

業務委託契約の多くには、「成果物の著作権は納品時(または検収完了時)に発注者へ移転する」という条項が入っています。著作権が相手に移った時点で、その成果物を「無断で使うな」と言える権利は相手のものになります。これは制作した本人に対しても同じです。つまり、自分のサイトに載せる、営業資料に印刷して配るといった行為も、別途の取り決めがなければ著作権者の許諾なしには基本的にできません。

📌 POINT

著作権を譲渡していても、著作者人格権(公表するかどうかを決める権利など)は譲渡できず、制作者に残ります(著作権法59条)。ただし実務上は「著作者人格権を行使しない」という特約が同時に置かれることがほとんどで、これを根拠に公開できると考えるのは危険です。人格権が残っていることと、公開してよいことは別の話です。

壁2:秘密保持義務が「案件の存在」まで覆っている

秘密保持契約(NDA)や業務委託契約の秘密保持条項に、「秘密情報とは、技術情報、営業情報その他一切の情報をいう」といった広い定義が置かれているケースは珍しくありません。この書き方だと、「あの会社から仕事を受けた」という事実そのものが秘密情報に含まれると読める余地が生まれます。成果物を出さず社名だけ書いた場合でも、この条項に触れる可能性があるということです。

また、「契約締結の事実を秘密とする」と明記されている契約もあります。この場合、匿名で「大手小売業のサイトを担当」と書くことすら、業界内で特定できるなら慎重になるべきです。

壁3:契約に書いていなくても、信頼関係の問題は残る

契約書に何も書かれていない場合、法的には公開が制限されないこともあります。しかし、無断で公開して相手が不快に感じれば、それだけで取引は終わります。継続案件を失うリスクは、実績1件の価値をたやすく上回ります。「禁止されていないからやってよい」ではなく、「一言確認したうえで堂々と載せる」ほうが、結果的に得るものは大きくなります。

⚠️ 注意

公開の可否は、実際に締結した契約書の文言によって結論が変わります。この記事は一般的な考え方の整理であり、個別の契約に対する法的助言ではありません。判断に迷う条項がある場合や、すでに公開してしまってトラブルになりかけている場合は、弁護士など専門家にご相談ください。フリーランスの契約トラブルについては、厚生労働省の委託事業である「フリーランス・トラブル110番」で弁護士に無料相談できます。

まず契約書のここを見る:公開可否を判断する5項目

クライアントに聞く前に、手元の契約書を読み直してください。すでに答えが書いてあることも、逆に「聞くまでもなく不可」と分かることもあります。確認するのは次の5項目です。

  • 実績公開・実績紹介に関する条項があるか(あれば、その範囲がすべて)
  • 著作権の帰属はどちらか(「著作権法27条および28条の権利を含む」の記載も確認)
  • 著作者人格権の不行使特約があるか
  • 秘密情報の定義がどこまで広いか(「一切の情報」なら要注意)
  • 秘密保持義務が契約終了後も続くか、続くなら何年か

記載パターン別・判断早見表

契約書の記載 意味 公開の判断
実績紹介に関する条項がある 公開できる範囲が合意済み その範囲内なら公開可
著作権は納品時に甲へ移転する 公開には著作権者の許諾が必要 許可を取ってから
秘密情報とは一切の情報をいう 案件の存在自体が秘密の可能性 範囲を確認してから
納品物の二次利用・転載を禁止する 実績掲載も二次利用と読まれうる 許可を取ってから
権利や秘密保持の記載がない 権利関係が未確定のまま 確認し、記録を残してから

「27条・28条を含む」という一文の意味

著作権の帰属条項で、しばしば「著作権(著作権法27条および28条に定める権利を含む)」という表記を見かけます。これは翻案権と二次的著作物の利用権のことで、この2つは契約書に特別に書き出しておかないと、譲渡されず制作者に残ったままと推定されます(著作権法61条2項)。発注側がこの一文を入れるのは、成果物を改変して使えるようにするためです。

ただし、この一文の有無は実績公開の可否そのものを左右しません。翻案権が手元に残っていても、複製権や公衆送信権が相手に移っていれば、サイトへの掲載には許諾が要るからです。条文番号に気を取られず、「実績公開について何と書いてあるか」を軸に読んでください。

最善は契約時に決めること:実績公開条項の入れ方

許可取りでいちばん確実なのは、納品後にお願いするのではなく、契約の段階で合意しておくことです。納品後の依頼は「追加のお願い」になりますが、契約時なら「条件のすり合わせ」です。心理的なハードルがまるで違います。2024年11月に施行されたフリーランス新法により、発注事業者は取引条件を書面や電子メールで明示する義務を負うようになりました。条件を文字にして確認するやり取り自体が、以前より自然になっています。

実績公開条項のサンプル

難しく考える必要はありません。ポイントは「公開してよい情報を、こちらから具体的に列挙する」ことです。範囲があいまいなまま「実績紹介ができる」とだけ書くと、後から解釈でもめます。

📄 条項サンプル(実績の公開)

第◯条(実績の公開)
1. 第◯条(秘密保持)の規定にかかわらず、乙は、乙が運営するウェブサイトおよび営業資料において、乙の制作実績を紹介する目的で、次の各号に定める情報を公開することができる。
 (1)甲および本件成果物の名称
 (2)本件成果物の画面の画像
 (3)本件成果物の機能およびデザイン上の特徴
 (4)乙が担当した業務の範囲
2. 前項に定めるもののほか、乙が本件成果物の公開または掲載を行う場合、乙は、都度、甲の電子メールその他の方法による事前の承諾を得るものとする。

1項の冒頭で「秘密保持の規定にかかわらず」と断っているのが肝です。これがないと、秘密保持条項と実績公開条項がぶつかったときに、どちらが優先するのかが分からなくなります。また、第三者(ほかの制作者や写真の権利者など)の許諾が必要になる場合に備え、「その許諾は乙の負担で取得する」と添えておくと、相手の心理的負担が下がり、通りやすくなります。

実績公開は「報酬と交換できる条件」でもある

見落とされがちですが、実績公開の可否は報酬と連動する交渉材料です。考え方はシンプルで、公開できない案件は、フリーランスにとって将来の営業機会を失う案件だからです。

  • 公開不可を求められた場合 機会損失の対価として、報酬の上乗せを提案する
  • 公開可にしてもらえる場合 交換条件として、金額や納期で歩み寄る余地を示す
  • 判断がつかない場合 「一部公開(匿名・キャプチャのみ)」を落としどころとして先に用意しておく

「公開させてください」と一方的にお願いするより、「公開可なら金額はこう、不可ならこう」と2つの見積もりを並べるほうが、相手も判断しやすくなります。お願いではなく、条件の提示に変えるのがコツです。

納品後に許可をもらう4ステップ

すでに納品が終わっている案件でも、諦める必要はありません。手順を踏めば、許可が下りることは十分にあります。大事なのは、聞くタイミング・聞く相手・聞き方・記録の4点です。

  1. タイミングを選ぶ 成果物が世に出た後、かつ検収と支払いが完了した後に依頼する。未公開の企画に触れるリスクがなくなり、相手も判断しやすい
  2. 相手を間違えない 窓口の担当者が良いと言っても、決裁権がなければ後で覆る。「社内で確認が必要でしたら、そちらの手順に合わせます」と一言添える
  3. 公開範囲を列挙して聞く 「実績に載せてよいですか」という漠然とした質問は、相手に検討コストを丸投げしている。載せたい項目を並べ、可否を選ぶだけの形にする
  4. 必ず文字で残す 打ち合わせで口頭の了解を得たら、その日のうちに内容をメールで送って確認を取る。担当者が異動しても記録が残る
⚠️ 注意

口頭の「いいですよ」だけを根拠に公開するのは避けてください。担当者の異動や方針変更のあとに問題化した際、証拠が何も残りません。相手が多忙で返信をもらいにくい場合も、「◯日までに特にご連絡がなければ、下記の範囲で掲載いたします」といった一方的な通知で済ませるのは危険です。承諾は、相手からの返信という形で受け取ってください。

聞き方が9割:可否を選ぶだけの形にする

許可が下りない理由の多くは、拒否されたのではなく「判断が面倒で保留されている」だけです。相手の担当者は、法務に確認すべきか、上司に上げるべきか、どこまで見せる話なのかが分からず、返信を後回しにします。だからこそ、こちらが選択肢を組み立てて渡します。

  • 載せたい情報を項目ごとに分けて書く(社名・画像・担当範囲・成果の数値)
  • 項目ごとに可否を選べるようにする(全部か無しかにしない)
  • 掲載場所を明記する(自分のサイトのみか、提案資料にも使うのか)
  • 難しい場合の代替案を先に提示する(社名を伏せる形など)
  • 断る選択肢を明示する(断りやすさが、返信速度を上げる)

そのまま使える依頼文テンプレート3パターン

実際の文面です。宛名や案件名を差し替えて使ってください。長く書く必要はありません。短く、選びやすく、断りやすく。この3つを守れば十分です。

パターン1:契約前・見積もり時に確認する

📧 文面例(契約前)

お見積もりにあたり、1点確認させてください。納品後、本件を弊方の制作実績として紹介させていただくことは可能でしょうか。掲載を想定しているのは、貴社名・成果物の画面画像・担当範囲の3点で、掲載先は当方のウェブサイトと営業資料です。
もし公開が難しい場合も問題ございません。その場合は実績紹介を行わない前提でお見積もりを調整いたしますので、その旨お知らせください。

最後の一文で「公開不可なら金額が変わる」と、角を立てずに伝えているのがポイントです。

パターン2:納品後にお願いする

📧 文面例(納品後)

先日は◯◯の件、ありがとうございました。無事に公開されたとのこと、うれしく拝見しております。
1点ご相談です。今後の活動用に、本件を制作実績として紹介させていただくことは可能でしょうか。掲載したい内容は下記のとおりです。差し支えのある項目がありましたら、その項目だけ外していただいて構いません。
 (1)貴社名の記載
 (2)サイト画面の画像1点
 (3)担当範囲(設計・実装)の記載
 (4)貴社サイトへのリンク
社内でのご確認が必要でしたら、貴社の手順に合わせます。難しい場合は遠慮なくお申し付けください。

パターン3:断られた後に代替案を相談する

📧 文面例(代替案の相談)

承知いたしました。事情を理解いたしました。
その前提で、もう1点だけご相談させてください。貴社名や画像を一切出さず、「小売業のコーポレートサイト(従業員100名規模)の設計・実装を担当」という記載のみであれば、掲載は可能でしょうか。特定につながる情報は含めず、成果物の画像も使用いたしません。
こちらも難しいようでしたら、実績紹介は見送らせていただきます。今後ともよろしくお願いいたします。

断られたときに食い下がるのではなく、「引き下がる意思」を先に見せたうえで、より小さい選択肢を1つだけ出すのが通るコツです。相手にとっては、ここで通しても失うものがほとんどないからです。

断られたときの代替案:公開レベルを4段階で考える

実績公開は「載せられる」か「載せられない」かの二択ではありません。情報の粒度を落としていけば、通る可能性は段階的に上がっていきます。最初から最上位を狙うのではなく、どこまでなら通るかを探る発想に切り替えてください。

公開レベル 出せる情報 許可の通りやすさ
① 実名フル公開 企業名・成果物の画像・担当範囲・成果の数値 低い〜中
② 匿名+画像 業種と規模・画面画像(ロゴや固有名を伏せる)
③ 匿名+文章のみ 課題・施策・成果を文章で説明(画像なし) 高い
④ 非公開・個別提示 商談の場で口頭説明のみ(資料は渡さない) 要確認

レベル3でも実績は十分に機能する

「画像がないと伝わらない」と考えがちですが、発注者が見たいのは仕上がりの美しさよりも仕事の進め方です。「業種・規模・課題・自分の判断・結果」が具体的に書かれていれば、社名や画像がなくても実績として成立します。むしろ、匿名化のために課題と施策を丁寧に言語化した結果、実名の実績より説得力が増すこともあります。

レベル4は「秘密保持の範囲」を必ず確認する

「公開はしないが、商談の場で口頭なら説明してよいだろう」と考える人は多いのですが、ここは要注意です。秘密保持義務は、公開・非公開ではなく「第三者に開示するかどうか」で線が引かれています。商談相手は契約上の第三者です。口頭でも開示は開示になり得ます。どこまでなら話してよいかは、必ず事前に確認してください。

⚠️ 注意

匿名化したつもりでも、業種・規模・時期・機能の組み合わせから案件が特定できてしまうことがあります。とくに業界が狭い分野では、「大手小売のサイトを2025年に刷新」だけで関係者には分かります。匿名化の判断は、自分ではなく「その業界に詳しい人が読んだらどう見えるか」を基準にしてください。

ケース別の注意点とよくある質問

契約の形によって、確認すべき相手も、通りやすさも変わります。自分の案件がどれに当たるかを見極めてください。

制作会社の下請けとして入っている場合

この場合、成果物の先には制作会社のクライアント(エンドクライアント)がいます。制作会社が良いと言っても、エンドクライアントとの契約で実績公開が制限されていれば公開できません。確認は二段階です。制作会社に「エンド側の許可も含めて確認いただけますか」と依頼するのが正しい進め方で、勝手にエンドクライアントへ直接連絡するのは、商流の飛び越しになるため避けてください。

エージェント経由・常駐型の案件の場合

エージェント経由の開発案件や常駐型の案件は、実績公開が認められないことが多いのが実情です。開発中のシステムや社内基盤に関わることが多く、秘密保持の範囲も広く設定されているためです。ただし、「使用技術・担当工程・チーム規模・期間」といった抽象度の高い情報なら、職務経歴書に書けることがほとんどです。公開実績が作れない代わりに、経歴として積み上がる案件だと割り切るのが現実的です。

なお、公開可否は案件を選ぶ段階でほぼ決まります。エージェントを使う場合は、契約前に「実績として公開できる案件かどうか」を確認してもらえるため、条件面の交渉を任せられる点は活用する価値があります。

🔍 契約条件の確認・交渉を任せられるフリーランスエージェント比較

クラウドソーシング経由の場合

募集要項に「納品物の二次利用・転載を禁止」「著作権は検収完了をもって譲渡」と書かれている案件をよく見かけます。この書き方は、実績公開まで禁止する趣旨かどうかが読み取れません。禁止と決めつける必要も、許されていると解釈する必要もありません。契約前のメッセージで「実績としての掲載可否」を明示的に確認するのが唯一の正解です。プラットフォーム上のやり取りは記録が残るため、確認の証跡としても機能します。

よくある質問

Q. 契約書に何も書いていなければ、公開してよいですか

A. 権利関係が不明なだけで、自由に公開してよいという意味ではありません。とくに著作権の帰属について記載がない場合、著作権は制作者に残っているのが原則ですが、秘密保持の観点や信頼関係の問題は残ります。ひと言確認して、その返信を残しておくのが安全です。

Q. すでに公開してしまいました。どうすればよいですか

A. 気づいた時点で、まず該当箇所を非公開にすることを検討してください。そのうえで、事後になったことを詫び、掲載を希望する旨と範囲を伝えて相談します。黙って続けるのが最悪の選択です。相手から削除を求められている、損害賠償に言及されているといった段階であれば、自己判断で対応せず専門家に相談してください。

Q. 発注者の担当者から口頭で許可をもらいました。それで十分ですか

A. 不十分です。その日のうちに「先ほどご了承いただいた内容を念のため文字でも共有します」とメールを送り、返信をもらってください。相手を疑っているのではなく、担当者が異動した後に自分を守るための手続きです。丁寧に添えれば、失礼にはなりません。

Q. 実績公開を認めてくれない案件は受けないほうがよいですか

A. 一概には言えません。公開できなくても、単価が高い、技術が身につく、継続が見込めるといった価値があるなら受ける理由になります。判断の軸は「公開できない代わりに、何を得られるか」です。何も得られないのに公開も不可なら、断る材料になります。

✅ この記事のまとめ

① 実績公開の前には「著作権」「秘密保持」「信頼関係」の3つの壁がある。著作権を譲渡していると、自分の制作物でも無断公開はできない
② クライアントに聞く前に契約書を確認。実績公開条項・著作権の帰属・秘密情報の定義・存続期間の4点が要
③ 最善は契約時に決めること。公開してよい情報を自分から列挙した条項を提案する
④ 実績公開は報酬と交換できる交渉材料。公開不可なら上乗せ、可なら歩み寄りの2案を並べる
⑤ 納品後の依頼はタイミング・相手・聞き方・記録の4点。項目ごとに可否を選べる形にすると通りやすい
⑥ 断られても二択で終わらせない。匿名+画像、匿名+文章と粒度を落とせば通る余地がある
⑦ 口頭の了承は必ずメールで文字にして残す。担当者の異動後に自分を守るのは記録だけ

実績公開の許可取りは、法律の知識を競う場面ではありません。相手が判断しやすい形に整えて、記録に残るやり方で聞く——この2つができれば、通る確率は大きく変わります。そして最も効くのは、次の契約から「実績公開について、あらかじめ一文入れておく」ことです。1回の手間で、その後の案件すべてが楽になります。今日から見積もりのテンプレートに、確認の一文を足しておきましょう。

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