
実績がないと案件はもらえない。案件がないと実績は作れない。独立直後の多くの人が、この堂々めぐりで止まります。結論から言えば、最初の実績は、案件を待って手に入れるものではなく、自分で設計して作るものです。「手元の経験を棚卸しする、自主制作と小さな依頼を組み合わせる、90日の期限を切って公開する」の順で進めます。実績として認められる条件から、見せ方、2件目へのつなげ方まで、この1ページで整理します。
【結論】最初の実績は、3つの順番で作る
実績とは、報酬をもらった仕事のことだけではありません。他の人の課題を解決し、その成果物と考えた過程を見せられ、なぜそうしたかを説明できるものは、実績として働きます。最初の1件は、次の順番で作ります。
- 手元の経験を棚卸しする職務の経験、学習の成果、自分で運営しているものから、使える素材を探す
- 自主制作と、小さな依頼を組み合わせる自主制作で見せられるものを作り、知人などの依頼で他の人からの評価を得る
- 90日の期限を切って、公開する完成を待たずに公開し、説明を添えて応募に使う
今日できることは、これまでに担当した仕事と、自分で作ったものを、思い出した順に10個書き出すことです。
会社員としての実務の経験が数年ある人は、その経験がすでに実績です。スキルシートにまとめれば、エージェントを通じた案件に応募できる場合があります。経験が浅い人は、この記事の手順で1件を形にしてから相談すると、話が進みやすくなります。
最初の実績として認められる3つの条件
発注者が実績を見るのは、この人に任せて大丈夫かを判断するためです。確かめているのは、次の3点です。
| 条件 | 見る点 |
|---|---|
| 他の人の課題を解決している | 自分の好みではなく、相手の困りごとを出発点にしているか |
| 成果物と過程を見せられる | 「できます」という言葉ではなく、見せられる形になっているか |
| なぜそうしたかを説明できる | 判断の理由を言葉にでき、別の案件でも同じように考えられるか |
この3つを満たしていれば、少額の依頼でも、自主制作でも、実績として使えます。反対に、報酬をもらった仕事でも、言われたとおりに作っただけで狙いを説明できないものは、判断材料としては弱くなります。
素材ごとの強さと、補い方
| 素材 | 強さ | 補い方 |
|---|---|---|
| 報酬を得た取引先の仕事 | 強い | 掲載の許可を得て、課題と結果をあわせて見せる |
| 会社員時代に担当した業務 | 強い | 自分の担当範囲を、正確に分けて書く |
| 知人からの少額の依頼 | 中くらい | 許可を得て、依頼した人の感想を添える |
| 自主制作 | 中くらい | 相手と課題の設定を、具体的にする |
| 教材をなぞって作ったもの | 弱い | 自分で変えた点、改善した点を加えて説明する |
| 資格や講座の受講歴 | 実績ではない | 制作物とあわせて、補う材料として使う |
実績の伝わりやすさは、報酬の大きさより、解決した課題をどれだけ具体的に語れるかで変わります。小さな案件でも、課題、判断、結果を説明できるものは、説明できない大きな案件より判断材料になります。
作る前に、手元の素材を棚卸しする
新しく作り始める前に、棚卸しをします。実績がないと感じている人の多くは、手元の経験を実績の形に直していないだけです。ここを飛ばすと、すでにある強い素材を使わずに、弱い素材を一から育てることになります。
3つの引き出しから探す
- 職務の経験担当した案件、改善した業務、社内で作った資料や仕組み、後輩への指導
- 学習の成果独学で作ったもの、勉強会での発表、まとめた記録
- 自分で運営しているものブログ、発信のアカウント、コミュニティの運営、趣味のサイト
3つ目は、見落とされがちです。ブログを続けて読者が増えたなら、構成と改善を繰り返した経験です。誰かに頼まれていないだけで、課題を決めて手を動かした事実は変わりません。
素材として使えるかを確かめる
書き出したもののうち、次のいずれかに当てはまるものは、素材として使えます。
- 誰かの困りごとが、出発点だった
- 取り組む前と後の違いを、言葉にできる
- 自分で判断した部分がある
- 成果物や、当時の資料が残っている
- 一緒に働いた人に、当時の感想を聞ける
棚卸しの記入例
| やったこと | 営業部門で、毎月の集計作業の手順をまとめ直した |
|---|---|
| 出発点 | 担当者によって手順が違い、引き継ぎのたびに誤りが出ていた |
| 自分の判断 | 手順書を作るだけでなく、入力する表の形をそろえた |
| 前と後 | 担当が替わっても、同じ手順で集計できるようになった |
| 使える方向 | 業務の整理、手順書の作成、表計算の設計 |
前の職場や過去の取引先の成果物は、秘密保持の約束があったり、権利が会社や発注者にあったりします。公開できるかどうかは、契約書や就業規則の内容によって変わります。迷う場合は、公開の前に相手へ確認し、必要に応じて弁護士などの専門家に相談してください。経験として書く場合も、内容が特定できない形にします。この記事は一般的な考え方をまとめたもので、個別の契約についての法的な助言ではありません。
最初の実績を作る5つのルートと選び方
棚卸しをしても足りない場合や、職種を変えて独立した場合は、新しく作ります。ルートは5つです。始めやすさと、評価のされやすさが違うため、2つを組み合わせます。
| ルート | 始めやすさ | 評価 | 向く人 |
|---|---|---|---|
| 自主制作 | 今日から始められる | 中くらい | 頼れる知人がいない。すぐ動きたい |
| 知人や前の職場からの小さな依頼 | 相手しだい | 高い | 前の職場との関係がよい |
| クラウドソーシングの小さな案件 | 応募しだい | 中くらいから高い | 実際の取引の流れを経験したい |
| 試しの価格での提供 | 声かけしだい | 高い | 感想や推薦の言葉を集めたい |
| コンペや公開の取り組みへの参加 | 募集しだい | 中くらいから高い | 技術で評価されたい |
基本の組み合わせは、自主制作と知人からの依頼
最も早く形になるのは、自主制作です。相手を待つ必要がありません。ただし、自主制作だけでは、他の人からの評価がつきません。そこで、作りながら、知人や前の職場の関係者に声をかけます。自主制作で見せられるものを作り、依頼された仕事で他の人からの評価を得る。この2つがそろうと、判断材料として使いやすくなります。
クラウドソーシングは、抜ける条件を先に決める
小さな案件は、契約から報酬の受け取りまでの流れを経験できる点で、入口として役立ちます。一方で、単価は低めになりやすく、続けるうちにその金額が自分の基準になります。「3件まで」「評価がつくまで」のように、抜ける条件を決めてから始めます。
無償や低い金額で受ける場合は、「実績を作るため、今回のみ」と、件数や期間を相手に伝えてください。理由を伝えずに続けると、金額を上げるきっかけを失います。無償の場合も、作業の範囲と、実績として公開できるかは、先に確かめます。
あわせて読みたい(実績と案件の全体像)
自主制作を、実績として通用させる5ステップ
自主制作が弱く見える原因は、作品を作っていて、仕事を再現していないことです。発注者が見たいのは、見た目の出来より、課題にどう向き合ったかです。
相手を、具体的に設定する
「架空のカフェ」ではなく、立地、席の数、客層、困っていることまで決めます。
課題と目標を、1文で決める
何のために作るのかを、作る前に書きます。
制約を自分に課す
納期、使える費用、修正の回数など、実際の仕事と同じ条件を入れます。
作って、他の人に見せる
同じ職種の人や、想定した相手に近い人に見せ、指摘を1つ以上反映します。
意図を言葉にする
なぜその構成や設計にしたのかを、課題と結びつけて書き残します。
特に大切なのは、5つ目です。意図の説明がない自主制作は、作品にとどまります。完成度が十分でなくても、「この課題に対して、こう判断した」と語れれば、仕事の進め方が伝わります。
設定の記入例
| 相手 | 駅から歩いて8分、席が12ある個人経営のカフェ(架空) |
|---|---|
| 課題 | 平日の昼に、初めての客が少ない |
| 目標 | 地図の検索から来た人が、営業時間とメニューをすぐ確かめられるページを作る |
| 制約 | 納期は2週間。費用のかからない範囲で作る。修正は2回まで |
職種別の、最初の1件のテーマ
| 職種 | テーマの例 |
|---|---|
| デザイン、サイト制作 | 架空の店舗や団体を設定し、課題を決めたうえで紹介ページを作る |
| エンジニア | 自分が手間に感じている作業を助ける小さな道具を作り、使い方を書いて公開する |
| ライティング | 想定する媒体と読者を決めて記事を書き、構成の意図を添える |
| マーケティング、データ | 自分のブログや発信を対象に、仮説、改善、結果を1回まわして記録する |
公開するときは、「自主制作」「想定した案件」と必ず書いてください。実在する企業の名前やロゴを無断で使うことや、受注したように見せることは、信用を失うだけでなく、権利の問題にもなります。自主制作と明記しても、狙いと判断を説明できれば、判断材料として十分に使えます。
90日で、最初の1件を形にする
実績作りが終わらない理由の多くは、期限がないことです。催促する人がいないため、手を入れ続けてしまいます。最初の1件には、締め切りを決めます。ここでは、90日を1つの目安として組み立てます。
| 期間 | やること | 到達点 |
|---|---|---|
| 1〜2週目 | 棚卸し、テーマ選び、相手と課題の設定 | 作るものを1文で言える |
| 3〜6週目 | 制作。並行して、知人や前の職場に声をかける | ひととおり形になった成果物と、相談が1件 |
| 7〜8週目 | 他の人に見せる、直す、意図を言葉にする | 人に見せられる状態と、説明の文章 |
| 9〜10週目 | 公開する、置く場所を整える、感想を集める | 提示できる実績が1件 |
| 11〜12週目 | 実績を添えて、応募や連絡を始める | 次の案件に向けた応募や連絡 |
完成を待たずに公開する
1件目を磨き続けても、得られるものは多くありません。公開して、誰かの反応を受け取ることで、次に直す点が分かります。粗さが気になる場合は、説明に「次に改善する点」を書き添えます。それ自体が、自分の仕事を見直せることの表れになります。
進まないときの対処
| 止まる場面 | 原因 | 対処 |
|---|---|---|
| テーマが決まらない | 評価されそうなものを探している | 今後受けたい仕事に最も近いものを、1つ選ぶ |
| 作り終わらない | 範囲が広すぎる | ページ1枚、機能1つなど、範囲を半分にする |
| 見せる相手がいない | 知人に頼みにくい | 勉強会やコミュニティで、感想を求める |
| 公開をためらう | 完成度が気になる | 公開する日を先に決め、改善する点を書き添える |
あわせて読みたい(期限を決めて、進める)
作った実績の見せ方
成果物の画像やリンクを並べるだけでは、伝わりません。発注者が知りたいのは、仕事の進め方です。1件ごとに、次の4項目で説明を添えます。
| 項目 | 書くこと |
|---|---|
| 背景と課題 | 誰が、何に困っていたか。自主制作の場合は、その旨を書く |
| 自分の担当範囲 | どこからどこまでを、自分が行ったか |
| 行ったことと、その理由 | 何をしたか。なぜその方法を選んだか |
| 結果と、次に活かす点 | 何が変わったか。次に改善する点は何か |
数字がない場合は、変化を言葉で書く
最初の実績で、売上などの数字が出ることは多くありません。数字がなければ、変化を具体的に書きます。「問い合わせまでに3回必要だった操作を、1回にした」「手作業で行っていた集計を、自動でできるようにした」といった書き方で、十分に伝わります。
出していない成果を書くことや、他の人の成果を自分の担当のように書くことは、避けてください。面談では、制作の経緯を尋ねられます。説明がつかない記載は、信頼を失う原因になります。
掲載の許可を取る
取引先の仕事を実績として公開する場合は、事前に許可を取ります。断られた場合でも、社名を伏せ、業種と規模だけを書く形なら認められることがあります。
掲載の許可を尋ねる文例
先日ご依頼いただいた件について、1点ご相談です。今後の活動のための実績紹介として、今回の成果物を掲載させていただくことは可能でしょうか。社名を伏せる形や、掲載する範囲を一部に限る形でも構いません。難しい場合は、遠慮なくお知らせください。
小さな案件でも、条件は文面で残す
2024年11月1日に施行されたフリーランス法では、事業者がフリーランスに業務を委託するとき、業務の内容、報酬の額、支払いの期日などの取引条件を、書面またはメールなどで明示することが義務づけられています。実績作りのための小さな案件でも、条件が口頭だけの場合は、文面で示すよう求めて構いません。
事業としてではなく、個人として依頼する人からの仕事は、この法律の対象になりません。その場合は、自分から条件を確かめるメッセージを送り、記録を残します。
あわせて読みたい(実績の見せ方を整える)
最初の実績を、2件目につなげる
1件目ができたら、そこで止めません。最初の実績の役割は、2件目を得るための材料になることです。
感想をもらう
依頼した人や、見てくれた人に、短い感想を頼みます。掲載の許可も、あわせて確かめます。
次の提案をする
公開した後の運用や、別の部分への展開など、続きの提案を1つ添えます。
見せ方を整える
4項目の説明を書き、いつでも送れる場所にまとめます。
同じ分野で重ねると、指名につながる
2件目、3件目を選ぶときは、1件目と近い分野を意識します。同じ分野の実績が重なると、「この課題ならこの人」と覚えてもらいやすくなります。得意とする分野を決め、プロフィールや発信の内容をそろえていくと、相手から相談が来る状態に近づきます。
エージェントに相談する時期
エージェントが扱う案件は、実務の経験を求めるものが中心です。実務の経験がまったくない段階では、紹介を受けにくいのが実情です。会社員としての経験がある人は、その経験をもとに相談できます。経験が浅い人は、まず自分で実績を形にし、自分での営業と並行して相談すると、自分の経験でどのような案件に応募できるかを確かめる機会になります。
あわせて読みたい(実績を、次の仕事と強みに変える)
よくある質問(FAQ)
実績の条件は、他の人の課題を解決している、成果物と過程を見せられる、なぜそうしたかを説明できる、の3つ。報酬の有無では決まらない
作る前に棚卸しをし、足りなければ自主制作と小さな依頼を組み合わせる。自主制作は、相手、課題、制約、他の人の目、意図の説明の5ステップで仕事を再現する
90日を目安に期限を決め、完成を待たずに公開する。4項目で説明を添え、感想、次の提案、見せ方の整理で2件目につなげる
まずは今日、棚卸しのメモを書くところから始めてください。実績が形になったら、自分での営業と並行して、エージェントで応募できる案件を確かめることも選択肢になります。

