
出産や育児を控えたとき、フリーランスが直面するのが「案件をどうするか」という問題です。会社員のような育児休業制度はなく、休めば収入は止まります。ただし、知られていないことがあります。法律上、一定の条件を満たす契約では、発注する側に育児と業務の両立への配慮が求められているのです。エージェント経由の案件も例外ではありません。この記事では、育児期に案件をどう調整するか、何を申し出られるのか、中断と復帰の進め方までを整理します。
エージェントに育児休業制度はない
まず前提を確認しましょう。フリーランスには、会社員のような育児休業制度はありません。エージェントは雇用主ではなく案件を仲介する立場なので、休業を認める制度や、その間の給与を支払う仕組みは持っていません。
育児休業給付金も、雇用保険に加入している人が対象の制度です。フリーランスは雇用保険に入っていないため、給付の対象にはなりません。ただし、出産や育児に関して利用できる公的な制度は別に存在します。お金の面については、給付や保険料の免除を扱った記事もあわせて確認してください。
この記事で扱うのは、お金の制度ではなく「案件をどうするか」です。休むのか、稼働を減らして続けるのか、どう伝えるのか。ここを計画的に進められるかどうかで、育児期の負担も、復帰後の立ち上がりも大きく変わります。
【重要】法律で「配慮」が求められている
意外と知られていませんが、2024年11月に施行されたフリーランス新法には、育児や介護と業務の両立に対する配慮についての定めがあります。
具体的には、6か月以上の継続的な業務委託を行う発注事業者は、フリーランスからの申出に応じて、妊娠・出産・育児・介護と両立して業務に従事できるよう、状況に応じた必要な配慮をしなければならないとされています。6か月未満の契約であっても、必要な配慮をするよう努めることが求められます。
| 契約の期間 | 発注側に求められること |
|---|---|
| 6か月以上の継続的な委託 | 申出に応じて必要な配慮をする義務がある |
| 6か月未満の委託 | 必要な配慮をするよう努める(努力義務) |
申出があった場合に求められる対応
申出を受けた側は、内容を把握し、対応できる選択肢を検討し、実施する内容を伝えることが求められます。対応できない場合でも、その理由を説明することが必要とされています。申出を無視する、検討もしない、理由も説明しないといった対応は、適切ではないと整理されています。
ただし注意点もあります。この定めは希望した配慮が必ず実現されることを保証するものではありません。あくまで、申出に向き合い、検討し、結果を説明することが求められている、という趣旨です。
本記事は法律に関する一般的な情報であり、法的助言ではありません。適用の可否は契約形態や取引の実態によって異なります。また、相談したことを理由に不利益な取り扱いを受けることは想定されていません。不当な扱いを受けた場合や判断に迷う場合は、契約内容を確認のうえ、弁護士など専門家や公的な相談窓口(フリーランス110番など)に相談してください。
どんな配慮を申し出られるのか
では、実際にどんな内容を相談できるのでしょうか。想定される例を挙げます。
- 常駐から在宅・リモート中心の稼働に変更する
- 1日の稼働時間を短くする、稼働日数を減らす
- 会議の時間帯を、通院や送迎に配慮した時間に調整する
- 打ち合わせを対面からオンラインに変更する
- 体調に応じて、業務量や納期を調整する
重要なのは、現に育児をしている人だけでなく、その予定がある人も申し出られるとされている点です。妊娠が分かった段階、あるいは復帰後の働き方を見据えた段階でも相談できます。「実際に始まってから」と待つ必要はありません。
担当者への伝え方【例文】
エージェント経由の案件では、まず担当者に相談するのが基本です。クライアントとの調整は担当者が代行してくれます。伝えるときは、状況・希望する内容・時期を具体的に示しましょう。
稼働条件の調整を相談するとき
「お世話になっております。ご相談があり連絡いたしました。現在妊娠しており、◯月頃の出産を予定しております。つきましては、△月以降について、常駐からリモート中心の稼働に変更いただくことは可能でしょうか。通院の都合で、午前中の会議は避けられると助かります。難しい場合の代替案もご相談させてください」
稼働量を減らしたいとき
「体調と育児の状況を踏まえ、◯月からは週5日稼働を週3日に減らしたいと考えております。業務範囲を調整いただくか、分担を見直す形でご相談できないでしょうか。継続してお力になりたいと考えておりますので、可能な進め方を検討いただけますと幸いです」
ポイントは、「辞めたい」ではなく「続けたいので調整したい」という姿勢を示すことです。担当者もクライアントに提案しやすくなります。
リモートや稼働日数の少ない案件を扱うエージェントを比較する ›案件を一時中断する場合の進め方
調整では難しく、いったん離れる判断をすることもあります。その場合も、進め方しだいで復帰のしやすさが変わります。
- できるだけ早い段階で担当者に相談する
- 契約書で、契約期間と解約の予告期間を確認する
- 離脱時期と、復帰の見込み時期を伝えておく
- 引き継ぎに協力し、現場が困らないようにする
- 復帰時に連絡がほしい旨を、担当者に明確に伝えておく
とくに5番目が効きます。「◯月頃に復帰予定なので、その時期にご連絡ください」と伝えておけば、担当者の記憶に残ります。連絡が途絶えたまま数年空くより、復帰後の動き出しがずっと楽になります。
復帰するときの案件探し
育児期を経て復帰する際は、以前と同じ条件が最適とは限りません。まず稼働できる条件を整理してから探すのが失敗しないコツです。
- 稼働できる曜日・時間帯(保育の状況に合わせて)
- リモートの必要性(送迎や急な発熱への対応)
- 会議への参加可能な時間帯
- 急な休みが発生しうることの共有
これらを最初に担当者へ伝えておけば、両立できない案件を紹介されて時間を無駄にすることもありません。ブランクを不安に思う必要もありません。復帰前の実績は消えるものではなく、担当工程や技術を具体的に伝えれば十分に評価されます。
妊娠が分かったら今すべきこと
最後に、備えとして早めに進めておきたいことを整理します。
- 生活費の見通しを立てる|稼働が減る期間の収支を試算し、必要な資金を確保する
- 使える公的制度を確認する|出産や育児に関する給付・免除の制度を調べておく
- 担当者に早めに共有する|調整も中断も、時間の余裕があるほど選択肢が増える
- リモート案件に強い会社にも登録しておく|復帰時の選択肢を広げておく
育児と仕事の両立は、条件の合う案件に出会えるかどうかで大きく変わります。リモートや週数日の案件を多く扱う会社を、今のうちに把握しておくことが、復帰後の安心につながります。
フリーランスに会社員のような育児休業制度はなく、エージェントも雇用主ではないため休業制度は持っていません。ただしフリーランス新法では、6か月以上の継続的な業務委託について、育児・介護と業務を両立できるよう、申出に応じた配慮が発注側に求められています(6か月未満は努力義務)。リモートへの変更、稼働時間や日数の調整、会議時間の配慮などを相談でき、現に育児中でなくても予定がある段階で申し出られます。ただし希望が必ず実現するとは限りません。一時中断する場合は、早めの相談と復帰時期の共有が復帰のしやすさを左右します。復帰時は稼働できる条件を先に整理して伝えましょう。
育児と両立できる案件があるかどうかは、エージェントごとに大きく違います。リモートや稼働日数の少ない案件の取り扱いを比較して、自分の状況に合う会社を見つけておきましょう。

