
「成果物に修正を求められた」「想定していなかった不満を伝えられた」。フリーランスとして働く以上、クレームは誰にでも起こり得ます。結論から言えば、クレームは正当な指摘と不当な要求を切り分け、事実と合意を記録しながら対応することで冷静に乗り切れます。この記事では、受けた直後の初動から解決までの手順、例文、ケース別の対処法、法律で線引きできる範囲、予防策までを1ページにまとめました。
【結論】クレームは「切り分け・記録・線引き」で冷静に対処できる
フリーランスのクレーム対応で大切なのは、すぐに謝りきることでも反論することでもなく、指摘の中身を契約と照らし合わせて、対応すべき部分と線を引くべき部分を分けることです。具体的には、次の3つの順で進めます。
- 受け止めて、切り分けるまず相手の話を最後まで聞き、契約の範囲内の指摘か、範囲外の要求かを分ける
- 事実と合意を記録する指摘の内容、対応策、期限、費用の有無をメールなどの文字で残す
- 範囲外には条件を示して線を引く無償で抱え込まず、追加の費用と日程を示す。悪質な場合は公的な窓口に相談する
自分に非がある指摘には、早く誠実に対応するほど信頼が戻ります。一方で、契約にない作業を無償で続けると、それが前例になり、要求が大きくなりがちです。受け止めることと、すべての責任を認めることは別だと考えてください。
クレームの多くは、着手前に範囲や修正回数、検収の基準を決めていないことから起こります。対応と同時に、次の案件で同じことが起きない仕組みをつくることが、いちばんのクレーム対策です。
正当な指摘と不当な要求の見分け方
クレーム対応の第一歩は、内容を仕分けることです。すべてを同じ「クレーム」として受け止めると、必要以上に自分を責めたり、正当な指摘を軽く扱ったりしてしまいます。判断の基準になるのは、契約書と発注時のやりとりです。
| 指摘の例 | 種類 | 対応の方向 |
|---|---|---|
| 仕様書と違う内容で納品された | 正当な指摘 | 誠実に修正する |
| 誤字や動作の不具合がある | 正当な指摘 | すぐに修正し、原因を伝える |
| 合意した納期に遅れた | 正当な指摘 | 謝罪し、今後の日程と再発防止策を示す |
| 仕様が曖昧なまま進み、イメージと違った | 判断が分かれる | 経緯を整理し、費用の負担を相談する |
| 納品後に、依頼になかった機能を追加してほしい | 範囲外の要求 | 追加の費用と日程を示す |
| 合意した回数を超えて、無償で修正を求められる | 範囲外の要求 | 合意した回数を伝え、以降は有償と伝える |
| 根拠を示さずに「全部やり直して」と言われる | 不当な要求の可能性 | 具体的な問題点を確認し、記録を残す |
判断が分かれる指摘はどう扱う?
仕様が文字で決まっていなかった場合、どちらか一方の責任とは言い切れないことがあります。このときは、打ち合わせのメモやメールを見直して経緯を整理し、「ここまでは当初の想定の範囲で対応し、ここからは追加の作業として相談させてください」と、分けて提案するのが現実的です。
契約書がない場合は何を基準にする?
見積書、発注メール、チャットのやりとり、打ち合わせのメモなど、合意の内容が分かるものが基準になります。口頭だけで決めた内容は証明しにくいため、今後は着手前に確認事項を文字で送る習慣をつけましょう。
対応するか線を引くかは、感情ではなく「約束された範囲」で決まります。クレームを受けたら、返事をする前に契約書や過去のやりとりを開くことを習慣にしてください。
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クレームを受けた直後の初動対応
受けた直後の対応が、その後の展開を大きく左右します。その場で結論を出さず、受け止めて、事実を集めて、持ち帰るのが基本です。
まず受け止める
反論や言い訳の前に「ご指摘ありがとうございます」と伝え、相手の話を最後まで聞きます。途中でさえぎると、不満が大きくなりやすくなります。
事実を具体的に確認する
「どの部分が」「いつから」「どう問題なのか」を確認します。画面の画像や該当箇所を送ってもらうと、認識のずれを防げます。
回答の期限を伝えて持ち帰る
「確認のうえ、〇日までにご連絡します」と伝え、契約内容と照らし合わせる時間をもらいます。期限を示せば、相手は待つことができます。
クレームを受けたときの一次返信(例文)
〇〇様
ご連絡ありがとうございます。〇〇についてご不便をおかけしており、申し訳ありません。
内容を正確に確認したいため、該当する箇所と、どのような状態になっているかを教えていただけますでしょうか。画面の画像があれば、あわせてお送りください。
確認のうえ、〇日(〇)〇時までに、対応方法をご連絡いたします。
一次返信で謝るのは「不便をかけていること」に対してです。原因が分からないうちにすべての責任を認めたり、無償でのやり直しを約束したりしないようにしましょう。一度の安易な約束が、その後の要求の前例になります。
電話や会議で強く言われたらどうする?
その場で結論を出す必要はありません。「大切なご指摘なので、正確に確認してからお返事します」と伝え、話の要点をメモします。終わったら、聞き取った内容をメールで送り、「認識に相違がないかご確認ください」と記録に残します。
返信はどれくらい急ぐべき?
内容がまとまっていなくても、受け取ったことと回答の期限は、できるだけ早く返します。返事がない時間が長いほど、相手の不満は大きくなります。対応の中身は、期限までに落ち着いて整えれば十分です。
解決までの基本ステップ
初動を終えたら、解決に向けて順番に進めます。感情ではなく、事実と契約をもとに動くのが鉄則です。
- 事実と感情を分けて整理する「納期に遅れた」は事実、「誠意が感じられない」は感情。事実には対応を、感情には傾聴で応える
- 契約や仕様と照らし合わせる指摘が合意の範囲内か、範囲外かを確認する
- 原因を特定する自分の作業の誤りか、仕様の曖昧さか、相手の要望の変化かを見極める
- 解決策を複数用意して提案する対応内容・期限・費用の有無を明確にし、相手が選べる形にする
- 合意を文字で残し、再発防止策を伝える決まった内容をメールで送り、次に同じことが起きないための変更を示す
謝るのはどこまで?
謝罪の対象を具体的にすることが大切です。自分の誤りがはっきりしている部分は、言い訳をせずに謝ります。原因がまだ分からない段階や、相手の要望の変化による部分については、「ご不便をおかけしていること」に対して謝り、責任の範囲は事実を確認してから伝えます。
| 自分の誤りが明らか | 誤りを認めて謝罪し、修正の期限と再発防止策を伝える |
|---|---|
| 原因を確認中 | 不便をかけていることに謝り、回答の期限を伝える |
| 契約の範囲外の要望 | 謝罪ではなく、追加の費用と日程を示して相談する |
自分のミスが原因だったときの報告(例文)
〇〇様
ご指摘いただいた〇〇の件、確認したところ、私の確認不足により△△が正しく反映されていませんでした。ご迷惑をおかけし、申し訳ありません。
・対応:〇日(〇)までに修正版をお送りします
・費用:今回の修正は無償で対応いたします
・再発防止:納品前の確認項目に△△を追加し、二重に確認します
修正版をお送りした際に、あらためてご確認をお願いいたします。
契約の範囲外の要望への回答(例文)
〇〇様
ご要望をお伝えいただきありがとうございます。確認したところ、今回の△△は当初お受けした範囲に含まれていないため、追加の作業としてご相談させてください。
・追加費用:〇円(税別)
・対応日程:ご依頼から〇営業日
現在の範囲内で近い形に調整する方法もご提案できますので、ご希望をお聞かせください。
修正が終わらない・減額を求められたなどケース別の対処法
クレームの形はさまざまです。よくある6つのケースについて、最初の一手と避けたい対応をまとめました。
| ケース | 最初の一手 | 避けたい対応 |
|---|---|---|
| 修正依頼が終わらない | 合意した修正回数を伝え、要望をまとめて出してもらう | 小出しの修正に都度、無償で応じる |
| 納品後に仕様を変えたいと言われた | 変更点を整理し、追加の費用と日程を示す | 当初の報酬のまま作り直す |
| 感情的な言葉で責められる | 具体的な問題点を確認し、やりとりを記録する | 同じ調子で言い返す |
| 報酬の減額をほのめかされた | 減額の根拠を文書で確認し、契約の報酬額を伝える | その場で減額に応じる |
| 「SNSに書く」と言われた | 冷静に事実を整理し、やりとりを保存する | 要求を丸のみして収めようとする |
| 不満を理由に支払いを止められた | 支払期日と契約の条件を文書で確認し、相談窓口も検討する | 催促をあきらめて放置する |
修正依頼が終わらないときは?
合意した修正回数を伝え、「次回の修正で確定とさせてください。修正したい点をすべてまとめていただけますか」とお願いします。回数を決めていなかった場合は、ここから先の修正を有償にする条件を提示し、合意を文字で残します。
報酬を減らすと言われたら?
その場で応じず、減額の理由を文書で確認します。成果物が契約の内容に合っていない場合は修正で対応するのが基本で、あらかじめ決めた報酬を後から一方的に減らすことは、条件によってはフリーランス新法で禁止されている行為にあたる可能性があります。
「SNSに書く」「悪い評価をつける」と言われたら?
脅しに近い言葉を受けても、要求を丸のみする必要はありません。やりとりを保存し、事実と対応の経緯を整理したうえで、契約にもとづいて誠実に回答します。実際に事実と異なる投稿をされた場合や、要求がエスカレートする場合は、弁護士などの専門家に相談してください。
支払いを止められたら?
契約書や発注時に示された支払期日を確認し、文書で支払いを求めます。成果物への不満がある場合も、修正で対応する部分と支払いの話は分けて整理します。解決しなければ、後述の相談窓口を利用しましょう。
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やってはいけないNG対応
良かれと思った対応が、かえって事態を悪くすることがあります。次の対応は、関係と自分の立場の両方を損ないます。
- 感情的に反論する言い合いになり、関係も評判も損なう
- 無視する・返信を遅らせる放置は相手の不満を大きくし、こじれる最大の原因になる
- 必要以上に謝り、すべてを譲る範囲外の要求まで受けると、要求が大きくなりやすい
- 口頭だけで済ませる記録が残らず、後から「言った・言わない」になる
- 事実を確認せずに原因を決めつける相手のせいにしても、自分のせいにしても、後で説明が食い違う
- 一人で抱え込む悪質なケースは、相談窓口や専門家を頼る選択肢を持つ
不当な要求は法律で線引きできる
「クレームだから」と、何でも無償で対応する必要はありません。不当な要求には、法律が線を引く根拠になります。ただし、自分の成果物が契約の内容に合っていない場合は、修正などの責任を負うことがある点も押さえておきましょう。
| 制度 | クレーム対応に関わるポイント | 対象 |
|---|---|---|
| フリーランス新法(2024年11月施行) | 費用を負担せずに内容を変更させたり、やり直しをさせたりすること、報酬の減額、受領の拒否などを禁止 | 従業員を使う発注事業者が、1か月以上の業務を委託する場合 |
| 取適法(2026年1月施行) | 下請法を改めた法律。不当なやり直しや減額などの禁止に加え、協議に応じない一方的な代金の決定も禁止 | 資本金や従業員数などの基準に当てはまる取引 |
| 民法(契約不適合) | 成果物が契約の内容に合っていない場合、受注者が修正などの責任を負うことがある | 契約の内容と、その取り決めによる |
つまり、自分に落ち度がないのに、無償でのやり直しを繰り返し求められるケースは、法律上の問題になる可能性があります。なお、発注事業者が追加の費用を負担して変更ややり直しを依頼する場合は、違反にはなりません。取適法とフリーランス新法の両方に違反する行為には、原則としてフリーランス新法が優先して適用されます。
悪質な要求や支払いのトラブルに困ったら、無料で相談できる公的な窓口があります。やりとりの記録を手元にそろえてから相談すると、話がスムーズです。
| フリーランス・トラブル110番 | 0120-532-110/9時30分〜16時30分(土日祝日を除く)。厚生労働省の委託で第二東京弁護士会が運営。弁護士が対応し、匿名での相談や和解あっせんにも対応 |
|---|---|
| 取引かけこみ寺 | 0120-418-618/平日9時〜12時、13時〜17時(年末年始を除く)。中小企業庁が設置。2026年1月に「下請かけこみ寺」から名称変更 |
自分の取引が法律の対象になるか、どこまで責任を負うかは、契約の内容によって変わります。実際の対応は契約書を確認のうえ、弁護士などの専門家にご相談ください。本記事は2026年9月時点の情報で、制度は改正される場合があります。
クレームのあと、取引を続けるか判断する基準
クレームを乗り越えて、かえって信頼が深まる取引先もあります。一方で、同じ種類のトラブルが繰り返されるなら、関係を見直す段階です。
見直しを考えるべきサインは?
- 合意した範囲を超える要求が、何度伝えても続く
- 根拠を示さない減額や、支払いの遅れが繰り返される
- 感情的な言葉や、脅しに近い言葉が続く
- 合意した内容を、後から何度も覆される
- クレームへの対応に、本来の作業以上の時間を取られている
当てはまるものが1つなら、条件の再確認で改善することもあります。複数が重なる場合は、次の案件を確保したうえで、契約の条件に沿って取引の縮小や終了を検討しましょう。終える場合も、引き継ぎを丁寧に行うことで、余計なトラブルを防げます。
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クレームを未然に防ぐ予防策
最も効果的なクレーム対策は、起こさない仕組みをつくることです。着手前の合意と、途中の確認と、記録の3つが柱になります。
- 範囲・納期・修正回数・追加費用を着手前に文字で決める「どこまでが約束か」が明確なら、指摘の切り分けで迷わない
- 検収の基準を決めておく何を満たせば納品完了とするか、確認の期限はいつかを合意しておく
- 途中で確認の機会をつくる構成案や試作の段階で見てもらうと、大きな作り直しを防げる
- できないことは早めに伝える期待値を正しく合わせておくと、後の不満が減る
- 納品前に自分で確認する確認項目を決めておくと、単純なミスによるクレームを減らせる
- やりとりを記録する習慣をつける打ち合わせの後は、決まったことをメールで送る
記録に残しておきたい項目
| 合意した条件 | 作業範囲、納期、報酬、修正回数、追加費用の扱い |
|---|---|
| 仕様の変更 | いつ、誰から、どんな変更の依頼があったか |
| 確認と承認 | 途中の確認で、相手が了承した内容と日付 |
| 納品と検収 | 納品した日、受け取りの連絡、検収が終わった日 |
| クレームの経緯 | 指摘の内容、自分の回答、合意した対応策 |
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働く環境を選ぶのも予防になる
予防の観点では、取引する環境そのものを選ぶことも有効です。フリーランスエージェント経由の案件は、契約の条件が整理された状態で始まり、トラブルが起きたときにエージェントが間に入って調整してくれる場合もあります。直接契約だけに頼らず、条件が明確な案件の入口を持っておくと、クレームを抱え込みにくくなります。
よくある質問(FAQ)
● クレームは契約と照らして、正当な指摘と範囲外の要求に切り分ける
● 受けた直後は受け止めて事実を確認し、回答の期限を伝えて持ち帰る
● 範囲外の要求や無償のやり直しには条件を示して線を引き、困ったら公的な窓口に相談する

